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※次回から偶数日投稿となります。

※次回投稿は2月2日です。

第39話 ツボルト迷宮の主
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15


「最後に教えてくれ。あんたがツボルト迷宮を踏破したとき、最下層では何が出た?」

「あんた、まだ気づいてなかったのかい。最下層では剣が出たよ。とてもいい剣がね」

「その剣はどんな剣だ。みせてくれ」

「ムドゥクがその剣を欲しがったんで、やったよ。あたしには使いづらい剣だったしね。その代わり剣のわざを教えてもらった。やった剣は今はアリオスの腰に下がってる」

「なんだと」

「だからあたしはあの坊やを一目みたとき、ムドゥクの孫だとわかったんだ。顔もよく似てるしね」

「また来る」

レカンは家に帰った。アリオスが食事の支度をしていた。

「アリオス。剣をみせろ」

有無を言わさず立てかけてあったアリオスの剣を借りると、剣を抜いて机の上に置き、細い杖を取り出した。

「すべてのまことを映し出すガフラ=ダフラの鏡よ、最果ての叡智よ。わが杖の指し示すところ、わが魔力の貫くところ、霊威の光もて惑わしの霧を打ち払い、存在のことわりを鮮らかに照らし出せ。〈鑑定〉!」


〈名前: 虚空斬り ( パルファンシル )

〈品名:剣〉

〈攻撃力:極大〉

〈硬度:大〉

〈ねばり:大〉

〈切れ味:極大〉

〈消耗度:極小〉

〈耐久度:極大〉

〈出現場所:ツボルト迷宮百五十階層〉

〈制作者:〉

〈深度:百五十〉

〈恩寵:不滅、防御恩寵無視、技術加算〉

※不滅:摩耗せず、壊れない。

※防御恩寵無視:相手の防御系恩寵を無視する。

※技術加算:使い手の技術により、攻撃力と切れ味に付加がある。


レカンは、かつてないほどの衝撃を受けた。

「何だこれは」

理想の剣だ。

まさにレカンが思い描いていた理想の剣だ。いや、それ以上のものだ。

剣の基礎値も非常に高い。高いどころか今までみたこともない名品だ。

そしてまた恩寵も素晴らしい。

威力や速度を加算されると使い心地に問題があるが、この剣は余分なものは足さず、まさに必要なものだけを足してくれる。

〈虚空斬り〉を手に取り、振ってみた。

(いい振り心地だ。手になじむ。名剣だ)

剣はぴたりと手に収まり、吸い付くようだ。こんな自然な握り心地の剣には、折れてしまった愛剣以外に出会ったことがない。

(あのときエダがアリオスの治療をするのを禁じていたら)

(この剣はオレのものになっていたのか)

ツボルト迷宮では戦い方をまちがえていた。前にいる魔獣ではなく、後ろにいるアリオスを斬るべきだったのだ。

(なんてことだ)

(最下層に主を探しに行く必要なんかなかった)

(いつもオレの後ろには真の迷宮の主がいたんだ)

(倒せば最高の剣を落とす迷宮の主が)

(今になって気づくとは)

ぎろり、とレカンは右目でアリオスをにらんだ。

(いや。今からでも遅くない)

「あの。何かすごく不穏な空気を感じるんですが」


16


翌日、レカンはシュルフサの実をたくさん買ってゴンクール家を訪れた。長腕猿の好物だ。きっと喜んでもらえるはずだ。正直、ジェリコへの土産のことはすっかり忘れていたのだが、前日のシーラとの会話で思い出した。アリオスは家の掃除をするというので置いてきた。

ノーマもエダもジェリコも在宅だった。ノーマは筆写師とやらの相手をしているとかで、まずエダとジェリコに会った。エダは再会をとても喜んだ。

(こいつは驚いた)

(たった六か月でここまで変わるものか)

エダはおとなの女性に変わりつつあった。いや、変わっていた。それは肉体が成長したからだけではない。物腰や目つきや所作や雰囲気が、明らかに一回り成長し、しっかりしたものになっていたのだ。

ジェリコに土産があると言うと、ジェリコの顔が喜びに満ちた。だが、シュルフサの実を取り出すと、悲しそうな顔をした。

「レカン。ジェリコはね、シュルフサが好きじゃないんだ」

「なに? そうなのか。それは知らなかった。悪かったな、ジェリコ」

「ぶるう。ぶる。るる」

「気持ちはうれしかったって言ってるよ」

「お前、ジェリコの言葉がわかるのか?」

「そんな気がしただけ。で、あたいには?」

エダへの土産のことなど、この瞬間まで考えていなかったのだから、やはりレカンの思考回路はちょっとおかしい。だが言われてみれば、ないとは言えなかった。

「これを使ってみるか」

ツボルト迷宮で得た〈イェルビッツの弓〉をエダに差し出した。性能を話すと目を輝かせた。

「ありがとう、レカン!」

エダはレカンに抱きついて喜んだ。

本当にうれしそうだ。

不思議なことに、エダにこれだけ喜んでもらえるのなら弓の一本や二本は惜しくない、とレカンは思った。どうして自分がそんな気持ちになるのかわからなかった。ただ、悪い気分ではない。むしろよい気分だ。

しばらく話をしていると、ノーマがジンガーを従えてやってきた。その後ろに一人の青年がついている。

「レカン! やあ、やあ。会えてうれしいよ。お帰り。よく来てくれたね」

「ああ」

ノーマの顔が喜びに輝くのをみて、レカンの心にも温かいものが湧いた。

後ろの青年はフィンディンといい、ゴンクール家の執事補佐なのだという。

「ジンガー。お茶をお願い」

「はい」

ジンガーの淹れてくれたお茶で喉をうるおしたあと、ノーマが姿勢を改め顔を引き締めて言った。

「レカン。私のために戦ってくれないか」

「なに」

「私は今、意にそまぬ結婚をするよう求められている。断るには、求婚している貴族の騎士と決闘して勝たねばならないんだ」

「そんなことになっていたのか」

「だが相手は腕も立ち、装備も最高級のものだ。よほどの戦士でなければ勝てない」

「ほう」

「君にこんなことを頼むのは心苦しいのだけれど、私には君しか頼める人がいないんだ。正直君の帰りがまにあわないんじゃないかと心配していたんだが、こうして帰ってきてくれた。頼む。私のために戦ってくれ」

「よし、わかった。任せておけ。相手は誰だ。どこにいる」

「戦う場所は王都だ」

「第39話 ツボルト迷宮の主」完/次回「第40話 白雪花の姫」※次回から偶数日投稿となります。次回投稿は2月2日です。

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